007

Co.
その日は午後から、BMXで海側へ丘を下って谷を走った。
最近開発が進んで、走れる場所が少なくなった。
いつの間にか新しい道ができてたり、家が建ったり。
「久しぶりにこっち通ってみっか」
大きな通りを渡って反対側へと向かう。
こっちも住宅用に整地されてたり、家が建設中だったり、新しい道が舗装されたり。
子供の頃に見ていた、丘の上から見える景色とはまったく違う。
新しく舗装された細い道を進んでみる。
きっと谷へと続いているはず。
少し進んだだけで景色が変わる。
むき出しの赤茶色い大地も見えてくる。
舗装されていない砂利道がいくつかあって、その先に家がある。
舗装された道を選んで、谷へと続くような道を探すけどそう簡単には見つからない。
諦めて大通りへと戻りかけていたとき、遠くから聞こえてくる音に気づいた。
なんだこれ。
音がするほうへ向かってみる。
ギター?
静かな、でも重いアルペジオ。
しばらくすると、ドラムも乗っかってくる。
こっちも重い。けど、なんだこれ、気持ちいい……。
派手な演奏じゃない。
でも、ギターとドラムのバランスがいい。
音楽をやっているというよりも、音で会話しているような……。
つい音をたどって、舗装された道路をはずれて、砂利道の奥へと進んでいく。
どんなおっさんたちがこんな音を出してるのか見てみたい。
そんな好奇心が、俺をどんどん敷地の奥へと向かわせる。
砂利道の先には割と大きな家がある。
向こう側は谷になっているのか、もう住宅地な感じはない。
車はなく、ガレージが開け放たれている。
ここから音がしてる。
ギターはきっと坊主の強面のおっさんだ。
この時の衝撃は忘れない。
先に見えたのはドラムのほうだった。
「マジかよ……」
ドラムをたたくのは同年代のちょっと冴えなさそうな男。
細い腕でTAMAのドラム。
ギターはこいつの親父か?
少し回り込まないとギターが見えない。
ゆっくり一歩ずつ進んで、さらに衝撃を受けた。
女?
しかも同年代くらい。
「……7弦かよ……」
女で7弦弾く奴をはじめて見た。
なんだこいつら……。
元からある曲を完璧にコピーしていた俺には、この音遊びが衝撃だった。
押してきたBMXを放り投げ、ガレージへとずかずか進んでいく。
「お前ら何?」
まだ演奏は終わっていなかったが、俺は居ても立っても居られない。
俺に気づいた2人が、演奏を止めてきょとんとこちらを見ている。
「……誰?アレクシスの友達?」
ドラムの男が女に聞き、女は首を振る。
「誰?」
「あぁ、俺コーディ。で、今の曲、誰の曲なの?」
「誰って、誰でもない。なんか勝手にできた」
勝手にできた?
……意味わかんね。
「……バンドやってんの?」
冴えない男と7弦の女、この組み合わせがまず普通じゃない。
「バンド?やってないよ。遊んでるだけ」
「……もったいねぇ……」
ため息と一緒に声も漏れた。
「君も音楽やるの?」
女のほうが聞いてくる。
「あぁ、コピーバンドやってる。Rustline、知ってる?」
「Rustline?アレクシス知ってる?」
男が女に聞く。
「……知らない」
「だよな」
「Rustlineってどういう意味?」
「知らね」
それよりだ。
「さっきのやつ、どうやってるんだ?」
「どうって?」
男がペットボトルの水を飲みながら聞く。
「……今度俺も混ぜてくんね?」
「いいよ」
即答かよ。
「え?いいの?」
「別にいいよ。君何やるの?」
「バンドじゃギターやってるけど、ベースがやりたい」
「ちょうどいいじゃん」
男が小さな冷蔵庫からペットボトルの水を出して俺に渡してきた。
「お、サンキュ」
「僕、セス。あっちがアレクシス」
「よろしく」
正直、こんな出会いがあるなんて思ってなかった。
しかも、あの音を出してたのが同い年。
そればっかりで気づかなかったけど、このガレージすげー。
「ここ、何?」
ガレージを眺めながら俺が聞くと、すぐにセスが答える。
「スゴイだろ!アレクシスの親父さん、誰だと思う?」
「え?有名なミュージシャン?」
セスの熱量から、ものすごいロックミュージシャンとかを想像する。
「ジェフ・ナッシュだよ!すごくない?」
「……誰?」
聞いたことありそうで、なさそうで。
「ほらね、普通の人は知らないよ」
アレックスがそう言う。
「アレックスの親父がバンドマン?」
「アレックスじゃなくてアレクシス」
セスが言い直す。
「バンドマンじゃなくてギタリストね」
それもセスが答える。
こいつ、なんかめんどくせーな。
「じゃ、ここアレックスの家?」
「アレックスじゃなくてアレクシスね」
ほんと、めんどくせーな。
「今はここに住んでるよ」
「アレクシスも否定しなよ」
めんどくせー。
「別にいいよ。何て呼ばれても」
「じゃアレックスな」