017

Se.
アレックスの両脇に、コーディとイーライが腕を組まれて立っている。
僕は3人の後ろ姿を見ていた。
下りてくるパラシュートを見ている3人。
僕はこの3人と過ごす時間が好きだ。
アレックスと出会えたからコーディとイーライがいる。
今僕が見ている3人は、僕がいない3人。
当たり前なんだけど。
Ex-LABは4人のはず。
仲間はずれはいやだ。
いや、誰も仲間はずれにはしていない。
その中に僕は入りたいのに、なんでそこに並んでないんだ?
イーライはいつもこんな気持ちなのかな。
イーライが撮っている映像には、イーライが映っていない。
僕は左腕のタトゥーを見た。
4本のリング。
僕たち4人。
思い出を語るときには、同じ目線で語りたい。
「その時僕はいなかった」、そんなのは嫌だ。
じゃあ向こうに行けばいいじゃないか。
空から飛ぶくらい、たぶん、できる。
死ぬわけじゃないし。
パラシュートがある。
パラシュートが開かなかったら?
いや、僕のパラシュートが開いて、他の誰かのパラシュートが開かない可能性もある。
……
ひとりは嫌だ。
僕は受付に行って「あのグループに入りたいんですけど」と申し込む。
「一緒で大丈夫よ」
3人を見ると、こっちを見て笑ってる。
イーライが受付に来て、お金を払ってくれる。
「もっと早く思い直すって思ったんだけどな」
受付に時間がかかって、後に来た人たちに先に飛んでもらうことになった。
「ほらね、やればできる子でしょ」
コーディの腕を組んだままのアレックスが、反対の手で僕の腕を組んできた。
「あ、じゃあ写真撮るよ」
イーライがカメラを構える。
「あ、ちょっと待って」
僕はアレックスの手を外して、イーライからカメラを取り上げると、受付の女の人に撮影をお願いした。
「4人で撮ろう」
コーディ、アレックス、僕、イーライの4人で腕を組んで並ぶ。
「撮りますよー」
いい記念写真になりそうだ。
「セス背伸びたね。出会った時はわたしより小っちゃかったのに」
「もう随分前に追い越してるけどね」
しばらくして、担当のインストラクターが来た。
僕の担当は30代後半くらいの男性。
ハーネスを着けてもらって、20分くらいの講習を受ける。
これが終わると、いざ、飛行機へ。
小型機に乗り込んで、床に膝を抱えて座る。
さすがにみんな緊張してる表情、でもない。
コーディはなんかテンション高い。
緊張隠してるな。
アレックスは若いインストラクターと話してるけど、いつも通りに見える。
よかった、イーライの顔は絶対緊張してる。
小型機が上空へ向かって飛びはじめた。
アレックスはもう楽しそう。
高度が高くなるほど、緊張も高まっていく。
あ、手が震えてる。
まだ上昇するの?
けっこう時間経ったよね。
担当のインストラクターがハーネスを連結すると、小型機の扉が開く。
心臓が飛び出そうだ……。
その時、肩をバシンっと叩かれた。
コーディだ。
そういえば、ライブの時もこうやって背中を叩かれたな……。
風の音とエンジン音だけ。
1人目が飛び出した。
もう一人。
そして、コーディが笑顔でジャンプした。
アレックスも笑顔で飛び出して、イーライはちょっと表情が硬いけど、笑ってる。
そして僕。
膝がガクガクだ……。
頑張れセス、お前ならできる。
自分で自分に言い聞かせて、扉から下を見る。
……
「準備はいい?」
インストラクターが声をかけてくる。
僕はうなずくしかできない。
準備なんてできてないけど。
「よし、行こう!」
行こう!の前にはもう空に放り出されていた。
叫び声すら出ない。
頭の中は真っ白で、景色を見る余裕なんてない。
飛んでるというよりも、落ちてる。
時間の感覚もない。
パラシュートが開くと一気に静かになった。
今まで静かじゃなかったことにも気づいてなかった。
ここからは、少し余裕もあった。
景色を見たり、コーディやイーライ、アレックスを探してみたり。
だんだん地面が近づいてくる。
あ、コーディだ。
もう着地してる。
アレックスも着地した。
相変わらず笑顔だ。
しばらくして、着地……。
無事に帰ってきた。
放心状態の僕のハーネスを、インストラクターが外してくれる。
インストラクターと握手して、終わり。
なんだ、たいしたことないじゃん……。
コーディとイーライが興奮気味で話してる。
アレックスはまだインストラクターと話して……いやハグしてる。
僕は立ち上がって、アレックスのほうへ向かう。
「行くよアレックス」
「セス!飛べたね!やったじゃん」
そう言って僕の背中にのしかかってくる。
僕はアレックスを背中に乗っけたまま、コーディたちと合流する。
イーライとコーディはずっと笑い合ってる。
「もう一回やりてー」
「今日はもう帰るよ」
そう言った後に気づいたけど、僕一人だけなんか冷静じゃない?
いや……なんか気分悪いかも……。
「どうだった?」
コーディが僕に聞いてきた。
「……」
どうって……。
「1回飛んだから、もう満足」
「もう一回やりたいねー」
背中のアレックスがそう言ってくるけど。
「今度は海ね。ダイビング」
「あー、それもいい!」
背中のアレックスが、僕の首に絡みついたまま暴れはじめる。
「来年もう一回こよーぜ」
コーディはまだスカイダイビングの余韻。
「来年?遠いな」
アレックスが僕の背中から降りて、コーディの横に並ぶ。
「さっきのインストラクターの人さ、もう1000本は飛んでるらしいよ」
「1000本!?」
「数えてるのがすごいね」
「ひとりで飛べるようになりたいね」
3人はまだまだスカイダイビングの興奮が収まらないらしい。
僕はただ、安心、なのかな。
勇気を出して良かった。
4人で飛べて良かった。
「セス?大丈夫?顔真っ青だよ」
アレックスが僕の顔を覗き込む。
「……気持ち悪い」
僕はトイレに駆け込んだ。
「ドーナツだ」
コーディとイーライの笑い声が聞こえてきた。