010

Se.
最初見たときは、絶対馴染めないと思ってたコーディ。
両耳に大きなピアス、鼻にもピアス。
毎日メタリカのバンドTシャツ。
すぐ上脱ぐ。
最近、頭を丸刈りにした。
どこからどう見ても僕をいじめてたタイプ。
3か月経ったけど、意外と仲良くやってる。
楽器の代わりにいつもビデオカメラを持ち歩いてるイーライ。
こっちは最初から何か気が合いそうだった。
今では2人とも僕の友達。
アレックスのバイト先のテラス席。
ビーチの目の前にある人気のカフェ。
最近はここを待ち合わせ場所にしている。
通りの向こうにはコーディとイーライがいる。
イーライのガールフレンドのリリーと、コーディのガールフレンドも一緒。
コーディのガールフレンド、この前の子と違うな……。
イーライと僕とリリーは学校で一緒に過ごすこともある。
「ごめん、お待たせ」
仕事を終えたアレックスが店から出てきた。
「遅かったね」
「お客さんと喋ってたら、時間過ぎてるのに気づかなくて」
「……また若い男性客でしょ。上手にあしらいなよ」
アレックスは何も言わず肩をすくめる。
通りの向こうでは、リリーがイーライに手を振って帰って行くところだった。
リリーを見送ったイーライが、通りを渡ってこっちに向かってくる。
「これ見ろよ」
イーライが手に持っていたチラシのようなものを見せてきた。
チラシは、ソラーナ・ビーチで行われるライブイベントを告知していた。
「これが何?見に行きたいの?」
「出るんだよ!君たちが」
「……」
突然のことで、アレックスと顔を見合わせて笑ってしまった。
「これに私たちが出るの?」
笑いながらアレックスがイーライに聞く。
「コーディがもうエントリーしたよ」
イーライが笑顔で答える。
「え?」
僕もアレックスも笑いが止まる。
「エントリーしたの?」
「コーディ、何考えてんのよ」
当の本人が通りの向こうから煙草に火をつけながら歩いてくる。
「よぉ。イーライに聞いた?」
コーディの顔はにやけてる。
「本気なの?」
「冗談でエントリーなんかするかよ。あと2カ月あるから大丈夫だって」
「相談してよ。どうすんの曲。僕ら、人に聴かせるような演奏したことないんだよ」
僕らがやってる音楽は、あくまで趣味の延長だと思ってた。
誰かに聴いてもらうとか、あんまり考えてなかった。
「バンドやってるってことは、誰かに聴いてもらうってことだろ」
「……そうか。わたしたち、バンドやってたんだ……」
「バンドじゃなかったら、何やってたの?」
イーライが笑いながらアレックスの隣の席に座る。
「いやー、バンドってなんか名前があって、どこかで演奏するもんだと思ってたから」
「……名前」
「名前な」
「確かに、名前ないね」
僕もコーディもイーライも、そこに引っかかった。
「え?そこ?ライブに出るんだよ?曲どうするとかそっちじゃなくて?」
アレックスが言うのも最もだけど。
「いや、バンド名も必要だよね。エントリーシートには何て書いたの?」
コーディとイーライに向かって聞いてみる。
「俺の名前書いた」
そういうとこ、コーディらしいよね。
「今のところ、バンド名が『コーディ・デルーカ』ってこと?」
アレックスが笑いながら言う。
「『ボン・ジョヴィ』みたいじゃん」
イーライもつられて笑う。
イーライが笑い出すと、僕もコーディも笑い出す。
「もう海いこーよ」
そう言ってアレックスが立ちあがると、4人で海へ向かう。
僕はバンド名のことが気になってしかたがなかった。
次の日、午前中の講義はイーライと一緒だった。
講堂の後ろ、端のほうの席にイーライと並んで座る。
「美術史なのに、今日は絵描かないの?」
美術史の授業は退屈で眠くなる。
僕はいつも、ノートの端に絵を描いてやり過ごしていた。
今日はまだノートも開いていない。
「バンド名。気になっちゃって」
「考えてんの?」
名前を考えてるわけじゃない。
僕らは、「バンド名」じゃないんじゃないかな、って考えてた。
イーライも入れて、4人のチーム名がいいな。
音楽のための名前じゃなくて、4人のための名前。
「バンド名じゃなくてさ、僕ら4人の名前なら何かな……」
「音楽の話じゃなくて?」
「そう。海行ったり、川に飛び込んだりしてる4人の名前」
「何それ?『グーニーズ』みたいなこと?」
イーライが静かな講堂の端で笑いをこらえている。
「もう18歳だよ……。今から『グーニーズ』結成するつもり?」
だめだ、イーライが笑いをこらえきれなくなってきている。
「イーライ……先生こっち見てる……」
イーライが咳払いをして、にやけた顔で背筋を伸ばす。
その日の夕方、いつものカフェのテラス席で、イーライはこの出来事をみんなに話した。
みんな大爆笑だったよ。
「でも、バンド名じゃなくて4人のチーム名みたいなのはいい案じゃない?」
散々笑っておいて、アレックスがフォローしてくれた。
「ライブに出るならバンド名もいるって言ったのお前らだろ。
バンド名とチーム名2つつけるのか?」
コーディの意見もごもっともだ。
「いいじゃん、1つで。イーライもバンドのメンバーだよ。
楽器持ってなくても、カメラ回してくれてる」
アレックス、いいこと言う~。
「……それいいな。じゃ、考えといて」
コーディが先に立ち上がって海のほうへ向かう。
上半身はもう裸で、ボードショーツ1枚。
裸足でアスファルトの上を歩いて行く。
痛いのか、熱いのか、歩き方がぎこちない。
3人でコーディの後を追う。
「冬になったらスノボ行こーぜ」
前を歩くコーディがそう言う。
「行きたーい!」
アレックスの予想どおりの反応。
「わたし、スカイダイビングやりたい!」
「スカイダイビング?嘘でしょ?」
「セスも一緒に飛ぼうよー」
アレックスが甘えた声で僕の手を取って言う。
「やだよ、僕は5mの岩場で十分だよ」
高所恐怖症というわけじゃないと思うんだけど。
なんでわざわざお金を払って空から飛ばなきゃいけないんだ。
あー、でも僕ら4人ってこれなのかも。
「『Extreme Labo』みたいな感じはどう?」
何だよイーライ、同じこと考えてんじゃん!
「何?」
「チーム名だよ」
コーディとアレックスは全然わかってないらしい。
「面白そうなことは、とりあえず実験してみたい。
僕らってそんな感じだよね」
イーライが説明する。
「方向性はなんかいい感じなんだけど……」
「『Ex-LAB』。
"laboratory"と"Love"をかけてみた。
アドレナリン愛感じない?」
今閃いたことをそのまま口に出してしまった。
「ダセー」
コーディとアレックスが口を揃えてそう言う。
なかなかいい線いったと思ったんだけどな。
結局、曲目と練習を優先して、チーム名もバンド名も決まらなかった。