011

Se.
12月にソラーナ・ビーチのライブイベントに出ることになった。
曲目決めが一番難航した。
曲はコピーでもオリジナルでもなく、アレンジを全面に押し出した。
ボーカルはなし。
メタリカの『For Whom the Bell Tolls』
コーディのベースのリフがメイン。
ベースだけ残して……
ビートルズの『Come Together』
ここもコーディの太い歪んだベースが主役。
僕のドラムも、ハイハットを細かく刻まず、もっと重く引っ張る。
途中からテンポを上げて……
ニルヴァーナの『Smells Like Teen Spirit』
アレックスのギターのリフ。
コーディは『Come Together』を弾き続ける。
ある瞬間に、僕とコーディとアレックスの音が『Smells Like Teen Spirit』になる。
この揃った瞬間がポイント。
ここからまた、ディープ・パープルの『Smoke on the Water』
ZZトップの『La Grange』
クリームの『Sunshine of Your Love』
ブラック・サバスの『Iron Man』へとつなげていく。
誰もが聴いたことがある曲のイントロをうまくつなげて曲にするってこと。
僕らには強みがある。
それは原曲通りにやったことがないこと。
毎回違う。
でもなんとなくルールはわかってる。
だから大きな失敗もない。
だから、練習もけっこう緩い。
アレックスの家のガレージで、ポテチつまみながら。
途中でプール入ったり、夕方になってきたら海にも行く。
ライブ直前になっても緩さは変わらない。
サンディエゴの街もクリスマスっぽくなってきた。
アレックスの家にはクリスマスっぽいものは何もない。
相変わらずジェフは不在が多い。
おかげでガレージで練習ができる。
「最後に一回通したら飯食いいこーぜ」
ついさっき、ポテチを袋から口に流し込んでたコーディが言う。
「もう最後?早くない?」
「見ろよ、もうアレックスが飽きてんぞ」
アレックスを見ると、ギターを置いて茶色い皮張りのソファに寝転んでる。
足を伸ばして寝転んでるけど、その先にはイーライが座ってる。
つまり、アレックスはイーライの足を台にしてる。
イーライはイーライで何も気にせず、アレックスの足の上に雑誌を広げてる。
まだ出会って半年近くだけど、もう見慣れた風景になってきた。
最後に一度通して、まぁ、完ぺきとは言わないけど、上出来だと思う。
タコスを食べて、早めに解散して、明日に備えることにした。
翌朝、イーライの車でソラーナ・ビーチへ向かう。
会場には『Holiday Beach Jam』と書かれた横断幕が見える。
人出もそこそこ。
ステージはトラックの荷台。
ヤシの木の前には、大きなクリスマスツリー。
早めに来て、イベントが始まる前に軽く音だけ出したりする。
あとは、食べたり、他の出演者のリハーサル見たり。
少し冷たい海風が吹いてきた頃に、いよいよライブが始まった。
僕らも待機場に入る。
会場にはカントリーっぽいのからキッズダンスまで様々。
もう既に何組目かの演奏が始まっていて、今は高校生バンドが演奏している。
「思ってたよりもお客さん多くなかった?」
そう言ったアレックスはちょっと緊張してそうな顔。
それをイーライがビデオカメラで撮ってる。
「次、6番!コーディ・デルーカ!」
「あ……」
コーディがイベントスタッフの声に反応して、そっちに向かっていく。
夕方5時前、日も落ちはじめ、西日が眩しい時間。
高校生バンドの演目が終わり、次のレゲエバンドの演奏が始まっている。
「次だって」
コーディが戻ってくる。
「ヤバい……緊張してきた……」
「アレックスも緊張するんだ」
ビデオカメラを回しながらイーライが笑う。
「観客はかぼちゃだと思え」
「かぼちゃ?」
コーディがアレックスに何か言ってるけど、かぼちゃ?
アレックスが深呼吸をすると僕の手を握ってきた。
手が小刻みに震えてる。
「離せよ!緊張がうつるだろ……」
反対の手を掴まれたコーディは、そう言いながらも振り解かない。
「……落ち着いてきた……。よし!大丈夫」
「何が大丈夫なの、まだ手震えてるよ」
アレックスはギターを抱えて、右手にピックを持つ。
「これでもう大丈夫」
アレックスの笑顔が戻った。
なんて単純なんだ、羨ましい。
正直僕は、今心臓がバクバクいってる。
飛び出してきそうだ。
「次、6番、ステージあがって」
前のレゲエが終わって、僕らがステージに上がる順番が来た。
「レゲエの後かよ……」
イベントスタッフの誘導に従ってステージに進む。
「ヤバい……呼吸が……」
止まりそうだ……。
「セス、深呼吸」
アレックスが僕の肩をポンとたたき、その後すぐにコーディが僕の背中をバンっと叩く。
大きく空気を吸い込んで、ゆっくり吐き出す。
ドラムスローンの高さを合わせ、座り心地を確かめる。
ステージの前方では、アレックスとコーディがアンプを繋いだり準備している。
その向こうに見える観客……。
まだレゲエの余韻に浸って踊っている若者の姿も多い。
「……かぼちゃには見えないよ」
ステージの袖を見るとイーライがこっちを撮影している。
「もっと近くで撮影しなよ」
僕がイーライに呼びかける。
「イーライもメンバーなんだから」
コーディとアレックスの準備も整ったみたいだ。
MCの紹介がはじまりそうだ。
僕はスティックを握りしめて心を落ち着かせる。
「それでは次はEx-LAB!」
お!
今「Ex-LAB」って言った……。
コーディの顔を見る。
にやけてる。
イーライが僕を撮ってる。
アレックスが僕を見て、音を出し始めた。
ディレイを使って、鐘っぽい余韻を作る。
そして、僕が叩くと、コーディも低く鳴らす。
ここからはもう、いつも通りだ。
観客を見る余裕とかなかった。
アレックスもコーディも観客側じゃなくてこっちを見る。
それがないと僕らの音楽って難しい。
コーディが僕とアレックスに目配せする。
でも、音の切り替えは僕が中心。
僕のフィル一発で「次!」が決まる。
やってるときは意外と冷静だ。
リフを次々と繋いでいくうちに、少しずつ余裕も出てくる。
コーディもアレックスも観客側を向くことも増えてくる。
お客さんもちゃんとノってくれてる。
アレックスのギターも少し大胆になってきた。
そして、あっという間の5分間の演奏を終えた。
「……楽しかった」
コーディも、アレックスも、そしてカメラを回し続けるイーライも、みんな笑顔だ。
ステージを下りてもまだ、4人で興奮してた。
Ex-LAB……。
いい名前じゃん。